睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とはどのような疾患か

症状

睡眠時無呼吸症候群とはその名の通り、睡眠時に無呼吸となる状態が続くことで、体にさまざまな影響を及ぼす疾患です。睡眠時無呼吸症候群の患者様は、起きている時(覚醒している時)には変化がありませんが、眠った状態になると一時的に呼吸が止まります。呼吸はそもそも、体の中に酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すために行われていますから、呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低くなります(いわゆる「酸欠」の状態)。すると、呼吸をするために起きてしまう(覚醒する)ため深い眠りにつくことが出来ず、日中に強い眠気が出てきます。
こうなると、日中のさまざまな活動での作業効率が低下します。車を運転する方にとっては居眠り運転の原因となりますし、仕事で何らかの機械を動かす方には労働災害の原因にもなります。もちろん、デスクワークが中心の方でも、作業効率の低下や、業務上の事故につながります。
睡眠時無呼吸症候群の怖いところは、これだけではありません。一時的に低酸素の状態となることを、「間歇的低酸素血症」といいます。低酸素の状態もほんの一瞬程度であれば問題ありませんが、間歇的とはいえ低酸素血症の状態が続くと、体全体が酸欠になってしまいます。
さらに、人の体は交感神経と副交感神経によって、交感神経は覚醒した状態、副交感神経は休息の状態に調整されていますが、睡眠不足が重なると「交感神経が亢進した状態」が続くことにもなります。健康な人の場合、起きている時は交感神経が亢進して血圧・心拍数・呼吸数などが上昇しますが、眠っている時は副交感神経が亢進して血圧・心拍数・呼吸数などが減少します。睡眠時無呼吸症候群の方は、眠っているはずの時間帯に一時的とはいえ低酸素の状態になって覚醒するため、交感神経が亢進して血圧や心拍を上昇させます。そうしないと、体の細胞にまで酸素が行き渡らなくなるためです。
この状態が長く続くと、高血圧や動脈硬化の進行、狭心症や心筋梗塞、糖尿病、脂質異常症など、さまざまな生活習慣病を引き起こします。自分自身が気付かないうちに、生活習慣病に近づいてしまうのです。

原因

睡眠時無呼吸症候群の大きな原因は、「空気の通り道が狭くなること」です。何らかの原因によって空気の通り道、主に「上気道」と呼ばれる部分(口、鼻、咽頭)が狭くなると、必要な量の空気が通れずに無呼吸の状態が生じます。
気道が狭くなる原因の一つには肥満がありますが、ほかにも次のような要因があります。

  • 扁桃が肥大している
  • 舌が大きい
  • 鼻炎・鼻中隔弯曲などの鼻の疾患
  • あごが後退している、あごが小さい

この他、喫煙やアルコール、暴飲暴食などがやめられない方も、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいとされています。
一般的には、女性よりも男性がなりやすく、男性は体形が変化しやすい30~60歳代、女性はホルモンバランスが大きく変わる閉経後に増加するといわれています。

睡眠時無呼吸症候群は、大きく2つのタイプに分けられます。一つは空気の通り道が閉塞することで起こる「閉塞型」、もう一つは呼吸しなさいという脳からの信号が上手く伝わらずに呼吸が止まる「中枢型」です。「閉塞型」は物理的に空気の通り道が狭くなるため、呼吸をしていても「いびき」をかきます。一方の「中枢型」は脳からの信号が上手く届かずに呼吸が止まりますが、気道の広さは通常であることが多く、「いびき」をかくことは稀です。

患者さんはどれくらいいるのか

成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられます。男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加します。
また、睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病の要因にもなりますが、重症の閉塞型の場合、60~70%の方が何らかの生活習慣病を発症していると考えられています。これまでに行われたいくつかの研究によると、高血圧の30%、狭心症や心筋梗塞の31%、心房細動の50%、心不全の76%は、睡眠時無呼吸症候群を合併していることが分かっています。

睡眠時無呼吸症候群の検査

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の状態を合わせた回数(無呼吸低呼吸指数 AHI)が5以上、かつ、いびきや夜間の頻尿、日中の眠気、起床時の頭痛などの症状が見られることです。重症度は、軽症(AHI 5~15)、中等症(AHI 15~30)、重症(AHI 30以上)に分けられます。いずれも、夜間睡眠時の呼吸状態から判断するため、いくつかの検査を受けて頂きます。

検査方法

エプワース眠気尺度

日中の眠気の自覚的な評価を簡単に行うテストです(夜間の呼吸状態を確認することはできません)。
計8問の質問に答えて頂き、各質問の合計点が11点を超えた場合(最大24点)、日中に過度な眠気があると判断されます。

アプノモニターを利用した簡易検査(パルスオキシメーター)

アプノモニターとは、一晩の睡眠中に何回の呼吸停止が起こっているのか、あるいは何秒間の呼吸停止が起こっているのかを確認するために行う検査です。専用の機器を自宅へ持ち帰って頂き、患者様ご自身で各センサーを装着し、就寝して頂きます。この検査は、ご自宅で行えるというメリットがあります。
アプノモニターの測定機器は、大人の手のひらに収まるくらいの大きさです。これに、鼻呼吸の状態を確認するセンサーと、血液中の酸素飽和度(SpO2)を測定するセンサー、「いびき」の状態を記録する呼吸音センサーなどが接続されています。
アプノモニターでは、1晩の睡眠中に何回の「無呼吸」が出現しているのか、いびきの程度はどのくらいか、酸素飽和度に変化があるのか、などが分かります。
アプノモニターで1時間あたり20~40回の無呼吸が出現している場合は、次のポリソムノグラフィー検査を行いますが、1時間あたり40回以上の無呼吸が出現している場合は、そのまま治療を始めます。 当院ではこの検査を行うことができます。

PSG(ポリソムノグラフィー、精密型)

この検査は、アプノモニター検査により睡眠時無呼吸症候群と診断された方を対象に行います。おおよその目安として、無呼吸の状態が1時間あたり20~40回出現している場合に、適応となる検査です。主に、睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定、治療方法の決定、治療効果の確認などの目的で行われます。1泊2日の入院が必要となるため、当院では検査ができませんが、提携先の医療機関をご紹介します。

尚、当院では初診時に、血圧測定、身長体重測定値からのBMI(肥満指数)算出なども行っています。

睡眠時無呼吸症候群の治療

睡眠時無呼吸症候群には、重症度に応じたいくつかの治療法があります。一つの治療法だけで完治することを目指すのではなく、状況に応じていくつかの治療法を組み合わせて行うことがあります。

重症度や閉塞部分などに合わせた治療

減量

日本人の場合、必ずしも睡眠時無呼吸症候群と肥満は関連していないこともあります。しかし肥満がその要因となっている場合には、やはり減量が必要です。明確な基準はありませんが、日常の食生活の改善、運動習慣の見直しなど、生活習慣の改善を心がける必要があります。

アルコール、睡眠薬

就寝前のアルコール(いわゆる「寝酒」)は、空気の通り道となる気道の筋肉を動きにくくします。そのまま眠ってしまうと、気道の中でも上気道と呼ばれる口や鼻から喉までの筋肉が動きにくくなるため、気道が狭くなり、睡眠時無呼吸を増悪(今よりも悪い状態になること)させます。
また、いくつかの種類の睡眠薬は、睡眠中の呼吸状態を悪くする可能性があります。睡眠薬の処方が必要な場合は、医師に相談しましょう。

CPAP(シーパップ)

日本語で「経鼻的持続陽圧呼吸」といい、Continuous Positive Airway Pressureの頭文字を取ってCPAPと表します。
CPAPは、睡眠時無呼吸症候群の中でも、中等症~重症の患者様に適している治療法です。専用の器械から患者様の状態にあった圧で、持続的に空気を送ります。患者様は睡眠時にマスクを装着し、自分の呼吸に追加するように、一定の圧力の空気で呼吸が続けられることになります。空気の通り道である気道を常に陽圧に保つことができるため、気道の閉塞を防ぐことができます。CPAPを行う間は、定期的な外来受診が必要です。

口腔内装置治療

空気の通り道である気道の閉塞が、口の中から舌根(舌の付け根)あたりまでにある患者様が、適応となる治療法です。下アゴが小さい、あるいは下アゴが後退しているような方に、適しているとされています。
患者様のアゴの形に合わせたマウスピースを作成し、これを口にはめた状態で眠ることになります。マウスピース作成が必要と判断された場合には対応できる医療機関へ紹介させていただきます。

手術

手術には、いくつかの適応があります。
気道閉塞の原因が扁桃の肥大にある場合は、口蓋扁桃摘出術(大きくなった扁桃腺を切除して、気道を拡げる手術)が適応となります。また、前述のCPAP療法と併せて行うような場合は、鼻の中の通りを良くするために、鼻の内視鏡手術を行うこともあります。
いずれの場合でも、全身麻酔で行うことになり、入院治療が必要となります。また、手術だけで睡眠時無呼吸症候群が完治することは少なく、体へのリスクも大きな治療法となりますので、患者様それぞれの病状を細かく検査することが必要です。手術が検討される場合は対応できる医療機関へ紹介させていただきます。

集学的治療

何らかの疾患に対し、複数の治療法を組み合わせて行うことを、集学的治療といいます。睡眠時無呼吸症候群の病状や要因は、患者様によって違いがあります。一つの治療法だけで完治を目指すことは難しく、いくつかの治療法を組み合わせた集学的治療を行っていくことが、一般的です。
例えば、CPAPと鼻の手術を組み合わせたり、減量しながらアルコールや睡眠薬を控えてCPAPを行ったりもします。中には、特別な治療を行うことなく、眠る時の体位を横向きにしたり首を後屈(後ろ向きに倒す)したりするだけで、症状が軽くなる患者様もいます。
どの治療法がそれぞれの患者様に合っているのかは、適切な検査の結果から判断させて頂きます。