子どもの腹痛を緊急度で考えると、緊急性が高い、すぐに病院へ連れていくべき腹痛と、緊急性が低い、自宅で経過をみる事ができる腹痛があります。
すぐに病院へ連れていくような緊急性が高い腹痛には、次のようなものがあります。
乳児の場合は「痛い」と言えませんが、痛みが強ければ、激しく泣く、両手足をバタバタ動かす、足を「く」の字に曲げてひざを抱えるようにして不機嫌に泣く、苦悶様の表情になるなどの変化があります。保護者がお腹に軽く手を触れてそれを嫌がるような場合も強い痛みを感じているかもしれません。
いつもの様子とはまったく違う、とても苦しそうに感じるような場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
しばらく自宅で経過をみても良い、緊急性が低い腹痛には次のようなものがありますが、いずれも症状が悪化したり続いたりするときには病院を受診しましょう。
「痛い」と訴えられる年齢の子どもならば、いつ頃から痛むのか、どの辺りが痛むのかなどを確認してください。
子どもの腹痛で緊急性の高いものに、「腸重積」があります。これは、口に近い側の腸管が肛門に近い側の腸管に引き込まれて腸管壁が重なり合ったものです。2歳以下の子どもに起こることが多く、特別な原因が分からないことがほとんどです。腹痛、嘔吐、血便の3症状がみられますが、3つともそろうことはあまり多くありません。
腸重積症がよくみられる年齢では腹痛を的確に訴えられない場合が多いため、足をまげてひざをかかえるようにして不機嫌に泣く、いつもと泣き方が違う、いつもと違う不機嫌といった状態が”間欠的”にみられます。突然不機嫌になりますが、数分くらいで機嫌が戻り、これを数分~20分ごとに繰り返します。嘔吐をくり返し、イチゴゼリーのような血便が出ることもあります。そして、なんとなく元気がない事も多いです。この場合は早急に医療機関を受診しましょう。
頻度は高くありませんが、緊急性のある病気としては腸閉塞があります。これは腸管内腔が何らかの機械的・物理的原因で詰まってしまう(閉塞)状態の事です。ちなみに「イレウス」とはお腹の中の炎症などにより腸管の動きが消失ないし低下(腸管麻痺)した状態です。少し前までは腸閉塞とイレウスは同様の意味で使われていましたが、近年は明確に区別されるようになっています。突然の我慢できないような持続する腹痛および腹部膨満、緑色や茶色の吐物が続くようなときは腸閉塞が疑われるのですぐに病院を受診しましょう。
突然の激しい陰部痛であれば精巣捻転を疑いますが、陰部痛の訴えがなく腹痛のみを訴える場合、痛みの部位をきちんと言えない年齢の場合は発見が遅れる事があり注意が必要です。
右下腹部痛であれば急性虫垂炎(いわいる”盲腸”)が疑われます。発症初期には痛みの部位が胃のあたりで徐々に右下腹部に移動していく症例もあります。また、嘔気や嘔吐、下痢を伴う事も多いため急性胃腸炎と見分けがつきにくい時があります。
同じ腹痛でも、それほど緊急性の高くないものもあります。排便で改善するような腹痛の多くは緊急性は高くありません。慢性反復性腹痛の原因の多くは便秘症です。朝や食後など、お腹の動きが活発になるタイミングで腹痛を訴えますが、しばらくしてお腹の動きが落ち着くと腹痛も改善します。排便が3日に1回でお腹が張っていたり、いつもコロコロとした硬い便がでたり、排便時に痛みや出血を伴うときはなんらかの処置や薬が必要と思われますので病院を受診してください。
お刺身などの生ものや冷たいものを食べたときやたくさん食べ過ぎたようなときなども腹痛を訴えることがあります。特に生ものは、同じものを食べた他の人が、同じタイミングで腹痛を訴えるような場合は、食中毒の可能性があります。薬を飲む前に便検査をすることがありますのでかかりつけ医に連絡し、受診の仕方などを確認してみましょう。
さらに、喘息や気管支炎、肺炎などの呼吸器の病気でも、子どもは腹痛を訴えることがあります。この他にも、足に紫色の発疹(紫斑)を伴うIgA血管炎、主にストレスが原因の過敏性腸症候群や起立性調節障害、食物アレルギー、胃食道逆流症、消化酵素(ラクターゼ)欠乏による乳糖不耐症など様々な病気で腹痛がみられます。
子どもが腹痛を訴えたときはまず、次のことを確認してみましょう。
お腹が痛くても自分で歩けるようならば、トイレに連れていき排便を促します。排便が見られ腹痛が治まってきたら、そのまま様子をみても良いでしょう。お腹を「の」の字にマッサージすると少し楽になることがあります。ただし、お腹の中に炎症があるとき(虫垂炎や胃腸炎)は、カイロなどで温めると炎症を悪化させる可能性があります。
子どもが腹痛を訴えるときは、何かしらの原因があります。普段から食事の内容や量、排便の状態などをよく観察しておきましょう。場合によっては、腹痛を訴えるタイミングに規則性があることもあります。腹痛をくり返す場合は、その前の行動なども把握しておきましょう。
小児科クリニックではまず、腹痛の症状はいつからあるのか、どれくらい痛がっているか、どの辺がどのように痛むのかなどを保護者の方からうかがいます。その上で診察し、必要に応じて検査を行います。嘔吐物や便が診察に役立つこともありますので、可能であればスマートフォンなどで写真を撮り、便を持参してください。
バイタルサインに異常がない腹痛であれば診断的治療として浣腸を行う場合があります。
病状によってはそのまま様子をみることもありますが、必要に応じてお薬を処方します。特に感染症の場合は抗生剤による治療が必要な場合もありますので、処方されたお薬はきちんと服用できるよう、保護者の方が管理して確実に服用させてください。
当クリニックではレントゲン検査、CT検査、超音波検査などが可能ですが、緊急性が高い、より詳しい検査が必要と判断した場合は、近隣の医療機関をご紹介することもあります。