顔や手足が腫れぼったくなっている状態を「むくみがある」と言いますが、医学用語では「浮腫(ふしゅ)」といいます。 私たちの体の約60%は水分でできており、そのうち1/3は血管と血管外の細胞のすきまを満たす液体「細胞間質液」として、2/3は細胞の中にバランスよく存在しています。毛細血管にはごく小さな穴が開いていて、酸素や栄養素が細胞間質液に漏れ出ています。細胞間質液はそれらを細胞に届け、細胞でできた老廃物や二酸化炭素を血管に戻す役割があります。 血管から細胞間質液へは、酸素や栄養素だけでなく水分も漏れ出ているのですが、何らかの原因でその量が増えるか、または細胞間質液から血管に戻る量が減ることにより、細胞間質液が多くなっている状態になると「むくみ」になります。
むくみが起こる原因は体中の水分量変化の調整が関わります。
子どものむくみの原因として多くみられる病気が、「急性糸球体腎炎」や「ネフローゼ症候群」という腎臓の病気や「クインケ浮腫」です。
晩秋から寒冷期に多く発症する4~10歳の男児によく見られる病気です。腎臓の中にある「糸球体」という組織が炎症を起こし、むくみ、高血圧、たんぱく尿、血尿、全身倦怠感などが現れます。咽頭炎や扁桃炎、とびひ(伝染性膿痂疹)の原因菌である「溶血性連鎖球菌(溶連菌)」に感染して2週間後頃に起こることが多い病気です。急な体重増加や、高血圧から頭痛や嘔吐がみられることもあります。重症になると、痙攣や意識障害のほか、尿量が減ってむくみが強くなると呼吸困難などがみられ、腎機能低下から腎不全を起こすこともあります。
糸球体から大量のタンパク質が漏れ出ることで、血液中のタンパク質(アルブミン)が減少し、尿量が少なくなりむくみがでる病気です。アルブミンは血液中の血漿に含まれるタンパク質の中で最も量が多く、血管内の水分量を調整する働きがありますが、アルブミンが減ると血管内に水分を保つことができず細胞間質液に水分が漏れ出てしまいます。尿量の減少、倦怠感、体重増加などがみられ、むくみが強いと胸やお腹に水分が溜まることもあります。
じんま疹の一種で血管性浮腫とも呼ばれます。じんま疹は通常、一過性で限られた範囲内に起こるむくみで、痒みがあり、あらゆる皮膚で現れる可能性があります。しかし、クインケ浮腫は皮膚の深い部位から皮下脂肪にかけてむくみが起こり、まぶたやくちびるが腫れぼったくなる病気です。遺伝性のものもあります。
このほか、先天性の心疾患があるとむくみが出ますが、その場合は脈が速い(頻脈)、四肢が冷たい、尿が少ない、皮膚が白い、多汗、体重が増えない、呼吸が速い、呼吸時にヒューヒューするなど、さまざまな症状もみられる事があります。
むくみはその原因によって現れやすい部位が異なりますから、体のどこがどのようにむくんでいるのか、どのような時・タイミングでむくみが現れ始めたかを確認しましょう。 長時間同じ姿勢でいたことによるむくみや、1日寝たらおさまるようなむくみの場合は受診しなくても心配ありません。 例えば腎臓の病気によるむくみの場合は顔に現れることが多いので、特にまぶたの腫れに注意し、尿の色や量などの状態を確認します。むくみが2~3日続くのであれば医療機関を受診することおすすめします。むくみの他に症状が現れていないかどうかも確認しましょう。 また、食事やお薬を飲んだ直後などにアレルギー症状として出るむくみは、緊急度が高いため救急車で医療機関へ向かうべき状態です。 先天性の心疾患は乳児健診などで指摘されることもありますが、気になる症状がある場合は早めに小児科を受診しましょう。
問診や診察からむくみの原因が腎臓の病気だと疑う場合には、まずは尿検査を行い、血尿やたんぱく尿が無いか、あればその程度を確認します。尿検査に異常がない場合は別の病気が原因となっている可能性があります。 必要に応じて血液検査を行い、むくみの原因を調べていくこともありますし、胸部の病気が原因だと疑われる場合には、胸やお腹、肺や心臓の周りに水が溜まっていないかを確認するための、レントゲン検査や超音波検査を行います。
むくみの治療方法はその原因となる病気によって異なります。
入院治療が必要となります。特にむくみや高血圧が強い場合は安静が必要で、水分や塩分、タンパク質などの食事制限を行います。高血圧には、血圧を下げる作用があるお薬や尿が出やすくする作用があるお薬を服用することもあります。危険な状態は1~2週間でなくなり、尿の量が十分で塩分制限がなくてもむくみがなくなり、血圧の正常、たんぱく尿が減っていくと退院となります。血尿はその後も数か月~1年程度続くこともありますが、通院治療で様子を見ていきます。
ステロイド薬を使った治療が中心です。たんぱく尿は1週間程度で減っていき、尿の量が増えるのでむくみがなくなっていきます。その後2週間程度でたんぱく尿がなくなり、しばらくお薬を飲み続けて様子をみますが、お薬を減らしたり止めたりすることで再発を繰り返すことも少なくありません。その場合は、検査を行い、ステロイド以外のお薬を使った治療が必要となることもあります。
クインケ浮腫はじんま疹の一種ですから、通常のじんま疹と同様、原因となる食べ物や薬剤などを取り除くこと・避けることが第一です。薬物療法であれば、アレルギーのお薬や炎症を抑える作用のあるお薬などを服用します。ただし遺伝性の場合は、遺伝性かどうかを調べる検査等も含め、より専門的な治療が必要となります。
先天性の心疾患の場合、それぞれの病気に合わせた治療を行いますが、入院しての検査や治療が必要となることも少なくありません。