食物アレルギーとは、簡単に言うと食べ物を食べた時に免疫を介して何らかの有害な症状が起こる事です。有症率は年々増加しています。食物アレルギーの診断において血液検査はほとんどの場合目安にしかならず、本当にアレルギーかどうかは実際に食べてみないとわかりません。
あらゆる食物が原因となりますが、年齢によって原因となりやすい食物に差があります。
0歳:鶏卵、牛乳、小麦など
4~6歳:鶏卵、牛乳、甲殻類(えび、かに)、果物類、ピーナッツ、そば、小麦など
7~19歳:甲殻類(えび、かに)、鶏卵、ソバ、小麦、果物類、牛乳、魚類 など
アレルギーの症状は、おおまかに皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、腹部症状、全身症状(循環・神経)に分けられます。
2時間以内に症状が出ることが多いのですが、遅れて出てくることもあります。
アナフィラキシーとは、アレルゲンにさらされた後に複数の臓器(皮膚、呼吸、腹部、全身)に強い症状が出現し、それが急速に進行するものをいいます。さらに、血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックと言います。アナフィラキシーでは迅速な対応が必要になります。
食物アレルギーの臨床型分類
食物アレルギーにはいくつかの臨床型分類があります。最も多い(最もイメージしやすい)タイプは即時型で、食物を摂取して多くは2時間以内に前述のような症状がみられます。他に乳児では、食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎というタイプもありますが、この診断は慎重にするべきで、まずは適切なスキンケアや軟膏塗布、環境整備をしっかりとした上で、食物除去試験などを行い診断していきます。皮膚検査や血液検査などで安易に(児および母の)食物除去をすることは栄養面でもアレルギー面でも母の負担においてもデメリットを生じます。他にも特殊型として、食物依存性運動誘発アナフィラキシーや口腔アレルギー症候群(花粉食物アレルギー症候群)などがあります。
診断は、特定の食物により症状が誘発されたエピソードや所見があり、それが免疫反応によるものと証明される事で確定します。特に大切なのは、実際に症状が出たときの状況を詳しく検討する事です。
乳児では食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎や消化管アレルギーなどがあり、食物との因果関係を証明するのに時間がかかる場合があります。適切なケアにもかかわらず悪化していく湿疹や、原因不明の下痢・嘔吐・血便・体重増加不良が続くようなときには詳細な問診や検査を行い、食物アレルギーの関与の有無を確認します。
アレルギー症状が出たときは可能な範囲で下記のような事項について記録を残しておきましょう。なお、携帯電話やスマートフォンで写真や動画を記録しておくのもよいでしょう(アプリもあります)。
食物アレルギーの検査としては主に皮膚検査、血液検査、食物経口負荷試験があります。
アレルゲンエキスを皮膚にたらし、その上から専用の針で皮膚に小さな傷をつけ、反応がでるかどうかをみる検査です。乳幼児では血液検査よりも感度が良いとの報告もありますが、手技の問題で結果に誤差が生じやすかったり、アレルギーが強い場合は全身症状を誘発する危険性がわずかながらあるという欠点があります。
採血をして、それぞれの食品に反応する抗体(特異的IgE抗体)の量をはかる検査です。
多数の項目を網羅的に見る検査と疑わしいものを集中的にみる検査があり、経過に合わせて使い分けます。
アレルギーが疑われる食品が多数ある時にスクリーニングとして行ったり、食物アレルギーの経過をみるときに経時的に確認していく際などに用いられます。測定値に対する症状誘発の確率をあらわしたプロバビリティーカーブというものもありますが、これはグラフ作成の元となった集団の背景や負荷量、判定基準などが様々であり、一概にこれにあてはめる事はできません。
特異的IgE抗体検査には注意すべき点がいくつかあります。
血液検査は補助的に使います。結果の解釈には注意が必要なので、必ず医師から説明を受けてください。
血液検査だけで食物アレルギーの診断はできません。したがって、離乳食開始前に血液検査で確認をするという使い方は適切ではありません。血液検査で反応があっても食べられる食品はあるため、全例でのスクリーニング検査は不要で、初めてのものは気を付けながら少量から実際に食べてみて確認をしていく方が望ましいと考えられます。なおアレルギー反応を恐れて離乳食の開始を遅らせることは、逆に食物アレルギーを増やしてしまう可能性があります。
実際に食物を食べてみてアレルギー反応が起こるかどうかをみる検査で、食物アレルギーにおいては最も信頼性の高い診断法になります。しかし、アレルギーがある場合は実際に症状がでるため、アレルギー症状に対応できるようにしっかりと準備をして行います。
検査の目的は、
などがあります。
年齢や今までの経過、合併症や血液検査の値などを参考に、なにをどれぐらいの量食べるのかを決定し、それを病院で摂取します。摂取後、2時間ほど病院待機してもらい経過をみます。何か症状がみられた(陽性)時には、その症状の程度に応じて薬を使用します。アレルギー症状がみられなかった(陰性)時には、家でも気を付けながら複数回トライをしてもらいます。
負荷試験は元気な時に行います。体調が悪い、下痢をしている、喘息発作が出た、湿疹が悪化しているなどの時は、まずはそちらの治療を優先して、落ち着いてから試験を行います。また、負荷試験の前に事前に中止しておかなければならない薬もあり、注意が必要です。
近年、発症予防に関しては様々な報告があり、関心が高まっています。
リスク因子としては、
などが報告されています。
荒れた肌(湿疹、アトピー性皮膚炎)から環境中の様々な食物アレルゲンにさらされると、その食物に対してアレルギーを持つようになり、逆に、早い段階で少量ずつでもよいので口から食べた食物に対しては体が受け入れるようになっていく、と考えられています。
リスクの高い集団に生後早期から保湿剤によるスキンケアを行うとアトピー性皮膚炎の発症を減らす事ができたという報告があり、湿疹が強いと食物アレルギーのリスクにもなるため、しっかりとしたスキンケアも重要となります。
きれいな肌を保ち、適切な時期(生後5~6ヶ月)から、様々な食品を摂取していく事が食物アレルギー発症予防に重要です。もし、アレルギー症状が起こっても、きちんと診断した上で安全に食べられる量までは摂取を継続し、なるべく完全除去にしないようにすることが大切です。
次のようなアレルギー症状がみられる場合は速やかに救急車で病院を受診して下さい。
症状が口周囲のみなどに限局していたり、活気もあり症状が改善していくようなら様子見でもよいですが、症状がどんどん悪化する時や、30分たっても改善傾向がみられない時は早めに病院を受診しましょう。
薬としては抗ヒスタミン薬やアドレナリンなどがあります。軽い症状であれば、抗ヒスタミン剤の内服で改善する事も多いですが、アナフィラキシーの時には速やかにアドレナリンを注射する必要があります。救急車などですぐに病院を受診しましょう。アナフィラキシーのリスクが高い児には、アドレナリンの自己注射薬(エピペン®)を処方します。
食物アレルギーをはじめ、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎が原因で学校や園に対処を求める必要がある場合に作成します。当院でも作成していますのでご相談下さい。
食物アレルギー診療ガイドライン2016