糖尿病とは、インスリン(血液中にある糖分を体に取り込むホルモン)が不足したり、上手く作用しなくなったりすることが原因で、血液中の糖分が過剰になる状態が慢性的に続く病気です。
一般的に、初期の糖尿病には自覚症状がありません。病気の進行とともに次のような自覚症状があらわれるようになります。
これらの症状に気づくころは、血糖値はかなり高く、すでに糖尿病がある程度進行している状態であると言えます。
血液中の糖分は「血糖」と呼ばれています。私たちは食事によって摂取した栄養素を腸から吸収しますが、その中には糖も含まれています。糖は血液の流れに乗って、筋肉や細胞に取り込まれてエネルギーとなるのですが、このとき血液中のインスリンが糖の吸収を助けて血糖値を下げる大切な役割を担います。 しかし糖尿病になると、インスリンが十分にその役割を果たせず、血液中に糖があふれた状態、いわゆる高血糖を招いてしまうのです。慢性的な高血糖が続くと、血管が傷つき、さまざまな合併症を引き起こす恐れがあります。
厚生労働省が3年ごとに行っている「患者調査」の令和2年(2020)の調査によると、糖尿病で現在治療を受けている患者総数は579万1,000人(男性338万5,000人、女性240万6,000人)とされています。
平成28年(2016)国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」は約1000万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」約1000万人を合わせると約2000万人と推定されています。最近20年間で増加傾向があり、健診などを活用して早期診断早期治療することが重要です。
糖尿病は大きく、1型糖尿病と2型糖尿病に分かれます。
1型糖尿病は、自己免疫的な機序で発症するとされています。インスリンをつくる能力が低いため「インスリン依存型」とも呼ばれます。発症は若い人に多く、急激に症状があらわれ、糖尿病を発症することが多いとされています。
2型糖尿病とは、遺伝的な要因(血縁者が糖尿病である)の他、生活習慣の問題(運動不足や過食など)が重なり発症します。「インスリン非依存型」とも呼ばれ、日本人の糖尿病の大部分は、この2型糖尿病が占めています。
その他の病態としては、膵β細胞機能やインスリン作用に関わる遺伝子に異常があるものや、ほかの疾患(膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患など)が原因で発症する糖尿病があります。
初期の糖尿病は一般的に無症状であるため、発症していることに気がついていない方が多いのが現状です。糖尿病の怖さは、自覚症状が現れた時にはすでに進行していることです。早めに気付いて治療を始めても、自覚症状がないからといって治療を怠ってしまう患者様も少なくありません。
さらに糖尿病が怖いのは、自覚症状が顕著になる頃にはさまざまな合併症が引き起こされている可能性があることです。
糖尿病の症状は、血糖値が改善されれば治まってきますが、合併症は一度発症してしまうと治療が困難になってしまいます。以下の合併症は、糖尿病の3大合併症といわれているものです。
糖尿病の合併症として最初に起こりやすい合併症で、足の末端の知覚障害から始まります。片足の指先のしびれから始まり、足の裏へと進行します。
神経障害が悪化すると、痛みを感じなくなります。ちょっとしたケガの傷から細菌が感染し、壊疽(えそ)が起こり、取返しのつかない状態になってしまうケースも少なくありません。
足は清潔に保ち、常に注意を払うようにしましょう。
糖尿病になると、眼底に出血が生じる糖尿病網膜症を発症しやすくなります。水晶体が濁る白内障も発症しやすくなりますが、網膜症は白内障と違い、治療が困難な病気です。進行するにつれ失明にいたるケースもありますので、注意が必要な合併症の一つです。少なくとも年に一度は眼科の検査を受けましょう。
糖尿病が進むと、腎臓もダメージを受けます。血圧が上昇する、尿中にたん白が出る、体がむくむなどの症状があらわれます。さらに症状が進むと、血液中に老廃物がたまり、腎不全や尿毒症など生命にかかわる重篤な症状を引き起こします。腎臓の機能が低下するとやがて腎不全となり、人工透析が必要となります。透析導入の原因の第1位は糖尿病腎症です。
糖尿病や糖尿病の予備軍を早期で見つけるには、定期的な健康診断が大切です。早期に血糖コントロールすることで、合併症を予防することができます。
糖尿病は、何かしらの自覚症状があるかどうか、あるいは「高血糖が慢性的に持続しているかどうか」によって診断することができます。ただし自覚症状が見られる頃にはすでにある程度糖尿病が進行した状態と考えられますので、一般的には健康診断などで「血糖値が高い」と指摘されて、医療機関を受診する方が多いようです。
医療機関では血液検査によって、空腹時血糖(または随時血糖値)と、HbA1cの二つを同時にチェックします。空腹時血糖値(または随時血糖値)は、採血した時点での血糖値を表すものです。一方のHbA1cは、過去1、2ヵ月の血糖値の持続的な値を反映するものです。
健診などでの血液検査で
① 空腹時血糖が126mg/dl以上
② 随時血糖値が200mg/dl以上
③ HbA1cが6.5%以上
のいずれか一つでもあれば糖尿病である可能性が高いですので受診をお勧めします。
また、同日の血液検査で①または②があり、③もある場合は糖尿病と診断可能です。
糖尿病の検査にはもう一つ、経口ブドウ糖負荷試験というものもあります。この検査は糖尿病の診断に必須な検査ではありませんが、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を見つけるのに有効であり、将来的な糖尿病への進展リスクも判断できる検査です。
ただし、自覚症状などから明らかに糖尿病が推測される場合は必要がないとされています。著しい高血糖が認められる方は病状を悪化させてしまうため、受けることはできません。
糖尿病の治療には大きく3つ、食事療法、運動療法、薬物療法があります。
一般的な病気の治療というと、服薬や注射だと考えますが、糖尿病の治療の基本となるのは食事療法です。これは他の病気と違い、糖尿病治療の特殊な点だと言えるでしょう。これは糖尿病の重症度に関わらず、軽症から重症まで必要な治療法であり、医療者からの食事指導を受ける必要があります。
病気の進行度によって食事指導の内容は変わってきますが、基本的に食べていけないものはありません。注意すべきことは「食べる量・摂取カロリー」であり、制限はあるものの、工夫次第で美味しい食事を楽しむことができます。食事療法が開始されると、定期的に通院し血糖コントロールがうまく行われているかをチェックします。
食事療法は、毎日のちょっとした心がけ次第で効果的に行うことができます。
糖尿病の患者様は、同じ生活習慣病に分類される「高血圧」を予防するために、減塩も心がける必要があります。また、糖尿病腎症が進行した患者さんについては、塩分やたんぱく質、カリウムなどの摂取制限があります。
1日に必要なエネルギー量は、身長と体重、身体活動量で決まります。しかし、性別・年齢・血糖コントロールの状況・合併症の有無によって状況は異なりますので、主治医と相談して決めることになります。
1日に必要なエネルギー量をもとに、三大栄養素である炭水化物・たんぱく質・脂質のほか、ミネラルやビタミンといった栄養素をバランスよく取り入れた食事を心がけましょう。
糖尿病治療において、食事療法と並んで生活習慣を改善するために重要なのが、運動療法です。運動することで、ブドウ糖をエネルギーとして消費し肥満を改善されると同時に、筋肉量が増えることもでもインスリンの働きが高まり、血糖値が下がりやすくなる効果が期待できます。また、血圧が安定することで、動脈硬化を防ぎ、合併症の予防にもつながります。
血糖値を下げる運動には、有酸素運動や筋力トレーニングがあります。有酸素運動とは「全身運動」につながる運動で、ウォーキングやジョギング、水泳などがあります。筋肉を維持するためには、筋力トレーニングを取り入れるとより効果的です。
ただし、運動療法を行う際は心臓や腎臓など体に負担がかからないよう、気を付ける必要があります。どのような運動をしたら良いかを主治医に相談し、無理なく継続的に行なうことが大切です。
糖尿病の治療に使われる薬は、内服薬と注射に分けられます。
1型糖尿病は、インスリンの絶対量が足りないことが原因となりますので、インスリン注射を行うのが一般的です。
一方の2型糖尿病は、食事療法と運動療法を行いながら、必要に応じて内服薬を使うことが多くなります。内服薬の種類は2025年時点で8種類ほどあり、実際の血糖値やHbA1c値のほか、患者様の体格、インスリン分泌能、インスリンへの反応の仕方など、糖尿病の状態によって内服薬を選択します。それでも血糖コントールが十分でない場合は、インスリンなどの注射療法を導入する場合があります。最近ではインスリン以外にGLP-1受容体作動薬という週に1回注射するタイプの注射薬があります。インスリンの分泌を手助けし、体重減少の効果も期待できます。
糖尿病は、なるべく早い段階で治療を開始し、継続させることで改善が期待できる疾患です。合併症予防のためにはHbA1c7.0%未満にすることが重要です。糖尿病と診断されたら、医師の診断のもと治療と定期的な検査を受けましょう。